二、双夏侯

 

賊討伐の任を果たした獣の軍は、・・・と言っても夏侯惇は嫌がるだろうが、彼らの主がいる[亠兌]のケン城に帰ってきた。
主、曹操が治めるこの[亠兌]州も、ようやく黄巾の賊をうち破ったばかり、まだまだ逃げ延びた残党があちこちで徘徊している。
官兵をあざ笑い、各県の救援要請の早馬が連日のように城内へ押し寄せている有様。

そんなわけで、曹操の部下が賊退治を請け負っているのである。
近隣わけわからぬ敵国を抱え、いつ大規模な戦闘が起こるか・・・云々。
曹操の言葉が飛んで、ムリヤリ東郡太守にさせられた夏侯惇は、ケン城に様子見にきたが、
ちょうど良いとばかりに、またもや曹操の一言で、討伐軍の一つに投入されてしまった。

当の夏侯惇はと言うと、
近頃、戦場から離れていたので、体がなまっているだろうと考えた曹操の厚意ではないか。
と、強引に思いこませてみるが、やっぱり何か、曹操にしてやられまくってる気がする。
悪い気が起きないところがまた、曹操の上手いやり方でもある。


どっと疲れた神経を引きずりながら、夏侯惇は帰還報告の為に宮殿に入った。
が、しかし、そこに曹操はおらず、
仕方なく、彼は曹操のいそうな場所を巡った。
こういう時に限って、姿が見あたらないものである。

イライラしながら、夏侯惇はあちこち闊歩している。
一度訪れた政務室で、曹操の所在を聞くが意味無く・・・と言うのも、荀[或"]は笑顔で戦の状況を聞こうとするし、荀攸はスヤスヤと居眠り、郭嘉はもうとうおらず、程[日立]は小言を重ねてそれを追っかけていった。
郭嘉と程[日立]のことは、ちょうど戻ってきた劉曄から聞いた話である。
その後は、見知った官吏に合うたびに、知らぬで通され、尋ねる彼も情けなくなっていた。

「くそッ・・・どこほっつき歩いてるッツ」
ムカついてムカついて大きい独り言をこぼしていると、
遠くから、
「元譲−ッ」
と、自分によく似た声が聞こえる。

夏侯惇の左方で、庭をゆっくりと歩いてくる夏侯淵の姿が視界に入った。
「妙才・・・助かった」
やって来た夏侯淵は、精神的疲労感限界の顔を見て、まず一言、お疲れのようだな、と投げかけた。
その顔といい、声といい、夏侯惇のコピーものである。

「誰かさんのおかげで万年、疲労困憊だ」
夏侯惇はぶっきらぼうに答えた。
わずかに笑みを見せて、夏侯淵は、
「捜し“モノ”なら、あそこだ」
と言って、後ろをさした。

宮殿の中庭。
小さな空間だが、何の装飾もされていないようで、あるのは、何代か前の城主が植えたっきりの雑木と化した樹木。転がる小石。覆い茂った雑草。
うち続く戦乱、一揆で忙しかった城の特徴である。
一見、さびれた空間をあえて曹操は手を加えようとはせず、そのままに残されている。

さびしい空間に、よく夏侯淵は足を運んでいる。
曹操もたま〜に来るようだが、それは彼の気の向くまま。
だが、今日は“気”が向いたらしい。
一番大きな木の枝の上、葉っぱの中からガサッと足が覗いた。

キンキラの派手な刺繍付きの靴は、まぎれもなく曹操の靴。
「・・・あのやろぉ〜」
瞬間沸騰この上なく、夏侯惇、突進ッ。
「孟徳ゥゥゥ−−−ッッッッッツ!!!」

ドゴッツ
怒りにまかせた夏侯惇の蹴りが大木にヒット。
「うおッ!?」
曹操の上半身が抜け出してくる。

「さんざん人をこきつかって・・・孟徳ッ、昼寝とは何だ!!」
「あ・・・元譲。戻っていたのか・・・お疲れさん」
逆さまにぶら下がったまま、曹操は笑っている。
「一言で済ますなッツ」
「相当きてるな・・・まったく、人が昼寝しておる時・・・おおッツ!!!」
また幹に蹴りをかます夏侯惇。

焦りの色をほ〜んの少しばかり表して、曹操はギィと口を横に広げた。
「落ちるだろう、元譲ッ」
「それを期待している」
夏侯惇はかまわず、蹴る。

「・・・妙才。止めてくれ。俺が落ちたら困るだろう」
傍観者、夏侯淵は冷ややかな目を向けて言った。
「いいんじゃないのか。皆、お前を探し回らずに済む」
「この双児め〜・・・!!」

「悪かったな、双児で」
ついでに夏侯淵も蹴りを入れた。おっと横目で見る夏侯惇。
曹操は苦い顔。
「だが、妙才、お前まで・・・」

「・・・“神獣”でも出すんだな」
ドコ、ドコ、ドゴッツ・・・
「そんなもの使えるかッツ」
「落ちろッツ」
日頃の忍耐が反発した攻撃はやむことなく、曹操の落下を迎えて終了した。

・・・最後に、落下した曹操は、二人に笑いながら受け止められたのだった。

 

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