医者





「死にたくなかったら、じっとしていた方がいいですよ?・・・私としては、手元が狂った方が実験材料になっていいんですが・・・」

・・・いつも、こんな事を言って、患者さんを困らせる人なんです。

「・・・どうします? このまま、傷口を逆に開いてしまうとね・・・、さっき帰って行った・・・ほら、髭が中途半端にバサバサになった男の人いたでしょう? あの人みたいに、真っ直ぐな線のような傷口になって綺麗な傷痕になりそうですね。私も綺麗な傷口って一回自分で作ってみたかったんですよ? さ、遠慮しなくていいですから・・・あれ?もう帰るんですか? 治療代ちゃんと払って下さいね? 踏み倒しすると、隣のばかでかいおじさん呼んで来ますから、どうぞどうぞ・・・・・・足は短いのに、逃げ足だけは早いんですね・・・」

・・・周りの患者さんも慣れているのか笑っていますが、本当に大丈夫なのかといつもハラハラします。ああ、“隣のばかでかいおじさん”というのは、仲康様の事です・・・何度もこんな事言っているので、仲康様も呆れてしまったようです。

「惜しいなぁ・・・、あんなに喚いていたんだから、ちょっとぐらい泣き喚いても減らないと思うんだけどなぁ・・・・・・あれれ、治療代払わずに帰ってしまって・・・見つけたら、倍の請求しようか」

・・・いくらかすり傷で怒鳴っていたからって、目の前で、ぎらぎらに研いだ小刀両手に脅しておいて、それはないですよ・・・羅義さん。


・・・羅義さんは、私の養父、李岱お抱えのお医者様です。字は付けたくなかったそうで、なぜかまだ少年に過ぎない私にも「羅義」と呼ばせてくれます。
いつも、邸の裏口を通用口にして、庭の端に診療所を建ててもらって診察しています。往診もします。
養父上と何のいきさつがあって、ここに住むようになったかはわかりませんが、私がここに来た後なのは確かです。
羅義さんは、いつも私が暇になった頃合いを見て、呼びます。

「ああ、来た来た。君にお願いがあるんだけど・・・」
「・・・また届け物ですか」
「僕、忙しいから、こっちの袋、隣の隣のあの十字路過ぎたあっちの・・・趙の婆様のところに届けてくれないかな?」
「はぁ・・・いいですけど、あちらのお婆さん、羅義さんはいつ来るんだっていつも怒るので、いい加減、行ってもらませんか?」
「・・・行けると思う? 七十過ぎた色ぼけ婆様、元気なくせに「ああ、風邪ひいた」、「熱が出て苦しい」だの言って来るだろ? 迷惑なんてもんじゃない・・・あの婆様来ると昼で終わるのが夕方になってしまうからね。・・・ちょっとよそ見したら人の肩とか下手したら腰にまで手を伸ばして・・・「若いもんはいいねえ・・・お兄さん?」って、気持ち悪いのも通り越して、さっさとくたばってくれた方がいいんだけどね・・・そんなに触りたかったら、目の前にでんと大金積んでくれたら考えもするけど・・・・・・」

・・・いつまでも終わりそうにないので、薬の袋を持ってその場を後にしました。趙婆というお婆さんは、お役人の息子さん夫婦と孫と一緒に暮らしておられます。羅義さんのように言えば、そこそこ金を持った若作り婆様といったところでしょうか。

「おんや、またおちびかい? あの綺麗な兄さんは何で来ないのかね〜・・・あたしは、あの兄さんと一緒にいると錆びた体がしゃきっとするんだよ・・・今度こそちゃんと言っておくれ」
「はぁ・・・すみません」

・・・なぜか、みんな私が李家の者だと知らないようです。使いが多いせいかもしれませんが・・・。私は構わないのですが、こんなにお年の方に真っ正面に愚痴をこぼされても、どういう風に答えたらいいものか・・・。

「だいたいこんなおちび寄越すんだから、相当あたしも嫌われてるのかね・・・いいわ、明日、あたしが言って口説き落とそうじゃない・・・」

・・・ま、また、朝早く来られるんでしょうか? とにかく、趙お婆さんの声は大きいので、羅義さんも片耳に指を入れて「帰れ」と叫ぶぐらいです。
それにしても、お年を召された女性の方は、そんなに口の悪い若い男性を好むのでしょうか? 羅義さんの診療所にはいつも、お年の方が多い気がします。
・・・もっと南に行けば貧しい者が多く、北の地域は有名なところでは、曹一族や夏侯一族の方々が住んでいます。ちょうど中間にあたるこの付近は、貧富の差が様々です。


「ええ? また婆様来るの? どうしてそこで僕が忙しい旨をちゃんと伝えておいてくれなかったのかなぁ?」

・・・一体、私にどう答えさせたかったんでしょうか?

「仕方ないね・・・明日は往診日にしよう!」
「いいんですか? 予定では明日・・・」
「抜糸ぐらいなら誰かやるだろうし・・・胃薬も残りでいいかな・・・」

・・・こんな調子です。後でこっそり、薬の配合も済ませているので、真面目と言えば真面目な人です・・・が、

「毎日、爺様婆様が多くて適わないよね・・・もっと若いのが何人も来てくれたら、少しはやる気が起きるのに・・・来たと思ったら、ちっちゃな子供だしね・・・」

・・・趙お婆さんと言っている事が変わらないんですが・・・羅義さん。


・・・明日の往診は南の地域に行きます。私も連れていかれる・・・いえ、ついていく予定です。
南はほとんど食うや食わずの状態です。なので、羅義さんは、治療代を貰う気は最初からありません。・・・その時だけは、とても真剣な顔で診察しています。私もそんな羅義さんは好きです。


ところで、・・・一つ、仲康様に尋ねたことがあります。
「お医者様と言えば、羅義さんのような人が多いんでしょうか?」、と。
仲康様は、すぐ、「いない」とはっきり言いました。
・・・そんなに羅義さんは変わっているのでしょうか? それとも、仲康様は羅義さんが嫌いなのでしょうか? 少し心配になりました。でも、顔を合わせれば話をしているので・・・一方的に羅義さんが話しかけているようにも見えますが・・・、きっと、大丈夫です。


・・・今は、いつまで、羅義さんが私を使いに走らせるのか、知りたいところです。



突っ込み少年・李璞のよくわからない独白でした(汗)・・・「ひたすら」という意味と外れまくってしまいましたが、もう収集つかないところに行ったので、どうしようもないです。設定十歳が苦しくなってきたかも・・・。
個人的には、羅義のキャラクターは好きです。言いたいことはちゃっちゃと言えた方が内に籠もらなくていいかも・・・と。微妙にオブラートにくるんでヅケヅケと言えるなんて最高です(爆)
話中の、興平元年(194)頃です。まだまだ平和な時間ですね・・・。
=2004.8.15=


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