虎痴


 

・・・許チョに、「虎痴」と名付けたのは俺なんだぞ。
なぁ、仲康。お前はちゃんと覚えているだろう?


「おい、虎痴・・・!」
「虎痴?・・・何だそれ・・・」
「呼び方(中国では許チョと発音が同じだそうです)変わらんからいいだろう」
「洒落じゃあるまいし・・・もっとまともな名前にしてくれ」
「お前強い割には、無口な時が多いから、な・・・」
「・・・わかった。あんたに従うよ」

その時、深く考えずにあいつに「虎痴」と名付けた。
まさか、後になってその名が大国の軍で使われるとは思わず、天下に広まるとは思わず、また、その名で生き始めたあいつを、その名で縛り付けることになるとは思わず・・・。

・・・「虎痴」という名に再会した時、俺はまたお前と付き合えるな、と思っただけだったのにな・・・。


孟徳のおっさんが魏王になって、しばらくして参内した時だ。
まだおっさん現れないし、誰もいないから、ちょうど良い、お前に久しぶりに話かけてみようとしたら、だ、
「陛下は、もうしばらくすればお出でになると思います・・・」
とか何とかその図体のくせにボソボソ呟いて、消えるなよ、お前・・・ッ!
・・・お前が軍に入ってきてから、たまに話すぐらいで、ほとんど一対一で話せなかったからな。だから、俺はどうにかしてお前との時間を作ろうとしてるのに。・・・わかってるのか?
一人取り残されて、話しかけた俺がバカに見えただろうな。お前の部下どもが・・・俺を「気の毒な眼」で見ていたのも惨めだったんだぞ。・・・ああ、一人か二人、見たことがある奴も混じっていたな。
あの時はほんとに腹が立ったんだぞ。孟徳のおっさんがまだ来ていないだろうと、宮殿へ早めに行った俺は何だ!とな。
それでつい愚痴こぼしみたいに側の奴らに言ったら、回り回ってお前に誰かが言ったらしいな。

で、お前が言ったことは、
「征南将軍はご親族ではありますが、外に出られた方。・・・私は朝廷の一臣ですから個人的お付き合いをする立場ではありません」
と、俺と付き合うことを拒絶したとか。そりゃあ格好良く見えるだろう。
孟徳のおっさん、喜んだこと。俺に口開くと必ずお前のその台詞ばかり聞かされて、まったく。・・・そういう格好付けた台詞好きなのわかっていてお前言ったんだろう。お前、意地悪いところあるからな。俺に遠回しにやりやがって。
わかってるよ。・・・その次の日行ったら、俺の方を向いて口の端で笑ってたからな、バカヤロウ。



でも・・・それで、寂しくないのか?お前。・・・俺はむなしいぐらい寂しいぞ。

虎痴・・・いつか、俺達二人ともあの世に行ったら、その時には、昔みたいな俺達に戻れるか?
「あんたに従うよ」
いつもそう言って、お前は笑ってたが・・・実際はどうだったんだ? それで良かったのか?
お前は人の為ばかりの人生で・・・ろくに子供も作らず、一人や二人でいいのか。
そんなところで突っ立ってるだけでいいのか。
人の事言えないが、お前も体中に傷ばっかり増やして痛々しいぞ・・・。

・・・もう、直接お前の口から聞くことも出来ないのか・・・。
生きて、この世で、この眼の前で・・・お前がそこに居るのにな・・・。
・・・くそっ。

俺は・・・、ただ、お前を側に呼んで、一緒に酒飲んで喋りたかった。・・・それだけだ。

・・・虎痴、お前はどうなんだ? なぁ・・・。





・・・今度、無理矢理ひっつかまえてやろうかな・・・いや、あの馬鹿力でやられたらどうしようもないから、宿舎にでもこっそり押し掛けてやるか・・・。
馬鹿か俺は・・・夜這いじゃあるまいし・・・、・・・何か良い方法ないのか。
・・・くそっ、俺は諦めないからな。
覚えてろ、虎痴ッ。

 


最後は蛇足・・・無くても良かったような。話も繋がり薄くてわかりにくいんですが、曹仁の独り言だからわかりにくい、で逃げます(おい)
それにしても、諦めの悪い曹仁さん・・・曹操2号みたい(笑)
曹仁と許チョは、同じ[言焦]出身とのこともあり、親友・・・兄弟(分)みたいな仲です。
曹仁の生年が168年で、許チョはだいたい170年ぐらいなのと、まだあれこれ理由はあるんですけど。とりあえず、曹仁と許チョが同郷だった事から、有名なエピソードの裏事情考えてみましたが・・・史書そのまま引用した感じがしないでも。
・・・話が明るい方向へ向いちゃったなぁ・・・曹仁がおちゃめな人になったし。
=2004.4.20=


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