十三、豪の男

 
元来た道を、東へ、孫策の居へ走ること一刻(15分)。・・・たった一刻。
草ぼうぼうの道の半ばで、周瑜は白と黒、二体の『神獣』に追いついてしまった。
追いつきたくて追いついたのだが・・・。
一つ、嫌な予感は当たったな・・・と、周瑜はその光景に出会ってしまったことを後悔していた。


「ったく・・・俺に足止めかけてただで済むと思うなよ」
力無さそうにあぐらと腕を組んで、地べたに座り込んでいる男がいる。天地、白黒、ぐるぐると彼を軸に回っている『神獣』へ呆れたように話しかけている。
「子敬殿・・・何故貴方がここに?」
周瑜が一目置く豪の男・魯粛。太い眉が印象的な男。援助してもらった男。大きな大きな借りを作ってしまった男・・・。
「ここに?じゃねえ・・・一体全体、どうなってんだ、こいつら揃って俺の前に飛び出してきやがって。お前、『白麗』なんかで俺を焼くつもりだったのか?」
魯粛はお前のせいだと言わんばかり、周瑜に突っかかってくる。
・・・聞きたいのは私の方だ。貴方こそこんな所で暇つぶしな・・・第一、貴方を焼く方が『白麗』に失礼ではないか。と、周瑜は心の中で毒づいた。

それはそうと、『龍』の狙いは、孫策でも何でもなく、この男だったとは・・・。
どうやら『影』を魯粛は知っているらしい。
周瑜が手招きすると、神獣『白麗』は白炎を収めて飛来し、肩へ留まる。真紅の眼がキラリと主を見る。
「自意識過剰男まで一緒だとは思わなかったなぁ」
魯粛が、さも嫌そうに言った。
「・・・何なんですか、その自意識過剰男とは」
周瑜の顔に、はっきりと苛立ちが。
「違いねえだろ?」
意地の悪い魯粛は、目の前の端正な顔が歪むと自身はにやりと笑って見せた。

「それにしても・・・その『龍』、ご存知なのですか?」
「まあな。お友だちのご挨拶だ」
「挨拶?」
「曹操の下に・・・劉曄ってのがいるだろ?」
「ええ、聞いたことがあります。皇室の流れを組む者で・・・かなりの知恵者だとか」
「それの『神獣』だ」
「この『龍』が・・・」
じっと周瑜は『影龍』を見つめる。

そして、次に周瑜は言った。
「『影の龍』とは・・・よほど劉子楊という人物は、陰険な性格なのですか?」
ずっこけそうになった魯粛だが、“影”の眼は鋭く輝いた。
「・・・殺されるぞ」
「殺れるものなら、殺って頂きたいものですね」
「自信過剰もそこまでいくと誉めてやるよ」
魯粛の考えるところ、周瑜と劉曄、どちらもいい性格である。
当の本人は、彼らにどう思われているかも知らず・・・。

「で?子楊さんよ。体に負担かけてまで、『神獣』飛ばすなんざ、よっぽどのことじゃねのか?」
『お気をつけて』
静かに、抑えた劉曄の声を響かせて、『影龍』は再び走り出す。
周瑜が案じた江都へは向かず、今度は北へ一直線に。
「あ、待て。待ちやがれ・・・たったそれだけの為に、ここに来たのか、てめえ!」
怒っても、叫んでも、飛び上がっても、一度消えた『龍』は帰ってこなかった。

「・・・行ってしまいましたね」
さすがに、周瑜も今度は追っ手は出さなかった。魯粛の“お友達”なら仕方ない。
「あいつが・・・滅多に動かねえ男が動いたんだ。俺の勘は当たってたかもな」
「勘ですか」
その勘だけでここまで来たのか、と言いたかった周瑜だが、彼もその一人である。
「貴方もこの地から発する不穏な空気を感じたのですか・・・」
「おもしろそうだろ?」
好奇心を湧かせながら、魯粛は拳を前へ振った。
空気の振動が水滴に変わって、パンと弾けた。

「お楽しみはまだまだ先だな・・・『征龍(セイリュウ)』」

 

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